タクシー運転手が突然「女性が遅くまで仕事をするなんて、いやな世の中になった」と…なぜ男性は無意識に男尊女卑をするのか | ニコニコニュース
女性活躍推進法によって「女性管理職」が身近になった。しかし、まだ男性管理職が圧倒的多数を占めるなか、管理職としての仕事に不安や戸惑いを感じている女性は多い。なぜ、女性たちは自らの仕事に不安を感じるのか。どうしたら、男性優位社会の中でうまく立ち振る舞うことができるだろう。
ここでは、『AneCan』『Oggi』『Domani』(いずれも小学館)などの副編集長を歴任した下河辺さやこ氏の著書『男尊社会を生きていく昇進不安な女子たちへ』(主婦の友社)から一部を抜粋。下河辺氏が女性に対する“無意識の偏見”を感じたエピソードを紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
◆◆◆
上司と部下は役割が違うだけで関係は平等私の上司は、私のことを「おまえ」と呼びます。
「ちょっとちょっと浅井さーん、この間のあれなんですけど」
「おまえさ、上司に向かってちょっとちょっとはないだろ」
「部下に向かっておまえもヤバいですって。それより…」
という感じで、私も褒められた態度では決してない(ちなみに浅井さんというのは実名です。あーあ、書いちゃった!)。
お取引先に伺う前には、いつものクセがポロッと出てしまうとまずいので、「気をつけてくださいね」とクギをさしつつ、ミーティングが始まる前に
「うちの上司は私のことをおまえって言うんですよ。昭和な会社ですみません」
とジャブを打っておきます。
みなさん最初は「このご時世に!」という顔をなさいますけれど、少しお話しをしていると「なんだ、このチームは仲がいいんだな」と安心されるようです。男尊女卑には敏感すぎるくらい敏感な私ですけれど、この件に関してはどうでもいい。なぜなら私が上司をリスペクトしているのと同様に、彼も私を尊重してくれているのを感じているから。「上」司、部「下」といっても役割が違うだけで、関係はあくまで平等だと思っています。
まったく悪気なく男尊女卑発言をするおじさま一方で紳士の皮をかぶっていても、男尊女卑をプンプン漂わせて女性たちに陰口を叩かれまくっているおじさまもいます。
「うちのカミさん、料理がヘタでさぁ」
(自分でつくればいいじゃん。パートナーの悪口を言うなんて最低!)
「彼女のほうが仕事はできるけど、キミは家庭もあるし勝ち組じゃないか」
(家庭があるから勝ちってどういうこと?)
(そうやって女性にお世話させるわけですね)
本人はまったく悪気がない…むしろ目の前にいる相手を褒めているつもりなんだけど、「男とは、女とは、こういうものである」という偏見が発言の端々に滲んでしまう哀しさよ。とほほ。要は「この言葉はいい」「あの言葉はダメ」ってことじゃなくて、差別的なものの見方や考え方、価値観そのものの問題なんですよね。
男尊女卑発言には笑顔でスルーする女性が圧倒的に多い男尊女卑発言を聞いた女性たちの反応は、私が見る限りではだいたい2パターンに分かれます。
「それって男尊女卑ですよねッ(怒)」
「そうなんですかぁ(ニコニコ)」
→無難な選択。
相手には悪気がないので、クレームを言っても「最近はコンプライアンスとかいって面倒くさい社会になったな」くらいに思われるのがオチ。痛くもかゆくもありません。ヘタをすれば男尊女卑を指摘した女性に、「あいつは正論を振りかざす」「こわいよなぁ」的な妙な噂を立てたり、仕事を邪魔したり、査定を悪くする可能性もあるからロクなことはない。職務権限があれば、モラハラと訴えられない程度の姑息な意地悪をすることくらい簡単です。
だから、笑顔でスルーする女性が圧倒的に多い。どうしようもない相手との間にわざわざ波風を立てて、男女平等を説いても時間の無駄。どうぞいつか自爆なさって! と心の中で呪いをかけながら何事もなかったようにやり過ごす。
女性が男性と同様に主張や昇進すると批判の対象にただ、反発する気持ちを持っていたとしても、こういう無意識の偏見に基づいた態度や発言は、女性たちの中に行動規範を植えつけていきます。
「女性は家庭的でなければならないと思われている」
「女性は男性のフォローをしなければならない」
ともすると、後輩女子たちも毒されてしまう。
(学校では習わなかったけど、社会はそういうものなんだなぁ…)
こうして女性自ら、男尊社会の再生産を起こすのです。
会社にもよるとは思うけれど、職務権限を持っている人の圧倒的多数に無意識の偏見がはびこっている中で、女性が男性と同様に何かを主張したり、昇進したりするのは、注目の的であると同時に批判の対象です。積極的になればはしたないと思われ、遠慮をすれば声が届かない。それは当の女性たちが一番わかっていること。
もちろん多くの企業のホームページには「女性活躍推進をしている」って書いてあるし、生き生き仕事をしている女性たちが登場していますよ。
でも、数字は嘘をつきません。
女性の管理職の割合は国際的水準が30~40%台。それだって人口比からしたら少ないのに、厚生労働省によれば日本企業の女性管理職の比率は、2020年度の雇用均等基本調査では部長相当職が8・4%、課長相当職が10・8%。男性の平均賃金水準を100・0としたときの女性の平均賃金水準も、2020年で74・3%(厚生労働省 賃金構造基本統計調査)と8割に満たず、大きな差がある。
男尊女卑発言を我慢していると、相手もどんどんつけあがってくる世界経済フォーラムが定期的に発表している各国の男女格差を測るジェンダーギャップ指数では、2022年の日本の順位は146か国中116位でした。先進国の中で最下位。中国、韓国、ASEAN諸国より低い順位です。いったいどこが男女平等なんでしょう?
正直言って、私の中にも「女性とは」というバイアスがあります。
「資料は整えて、挨拶は男性にまかせる」
「飲み会のときのオーダーとお酌は私の役目」
ま、そのほうがぶっちゃけモテますしね。でも、そんなふうにしても寄ってくるのは偉ぶりたいオッサンばかりでロクなことはありません。昭和生まれの私が思い込んでいる「女性らしい振る舞い」をしたところで、正直言って今まで生きてきて何の得もなかった。そうわかっていても、やっぱり長年の間に染みついた考え方や振る舞い方はなかなか抜けるものではない。
ただ、今は無意識ではなく意識しているので、自分の中のバイアスと闘っています。
自分が準備したことは自分が仕切って責任の所在を示す。会議のときは堂々と真ん中に座る。紹介されなくても自分から挨拶する。お酌は接待するときだけ!
だいたい、男尊女卑発言を我慢してニコニコしていると、相手もどんどんつけあがっていきますからね。
タクシー運転手による偏見に満ちた話の数々一度、深夜まで仕事をして終電を逃し、クタクタになりながら飛び乗ったタクシーで、運転手さんに
「今は女の人も仕事をして大変だよねぇ」
と話をふられて、思ってもいないのについ
「そうですねぇ」
と答えたことがありました。
途端に
「女の人が遅くまで仕事をするなんて、いやな世の中になった」「保育園がないというけど、子どもはお母さんといたいもんだ」「うちの息子の嫁が仕事を始めて孫を保育園に入れたら毎日風邪をもらってきてかわいそうだ」etc.
と偏見に満ちた話の数々が…。
当時、まだ息子が小さくて、熱を出すたびにヒリヒリしながら仕事の調節をして帳尻を合わせ、一方で病気の子どもを病児保育にあずけて仕事をすることにかなり胸を痛めていた私にとって、こういう言葉は暴力と同義。
「あなたに何がわかるのよ!?」
涙ながらに抗議しそうになったけれど、ハンドルを握っているのは運転手さんですから、ケンカをするわけにもいきません。その人の運命も左右しかねない力を持っている人からハラスメントを受ける悔しさってこんな感じなのかも…と思った瞬間でした。
ハラスメントの証拠はきっちり記録20年前のインターネットもまだ普及しきっていないころ。SNSももちろんなかった時代です。タクシーの中以外でも、さまざまな場面で、さまざまな人から差別的な発言を受けました。後輩たちの話を聞くと、民間人が宇宙に行ける時代になっても、それはあまり変わっていないようです。そして近ごろ、私が受けるハラスメントは主に年齢に関すること。「あれ? もうすぐ50歳だよね(ニヤニヤ)」「45歳から大学院になんか行ってどうするの?」。大きなお世話です。
そんなときはお札(ふだ)の出番。
「そうなんです。◯◯さんが女性を差別したり、年齢で人を判断したりする人じゃなくてよかった!」
「あなたは男尊女卑なんてしない紳士」というお札をオデコにピタッと貼ったら、相手はそう振る舞うしかありません。
怒りに震えて言えないって? 実は私も最初は棒読みだったけど、もう何回も言っているのですっかり大女優の域に達してきました。
もちろんこういう技が通用しない相手もいます。そういう人の言動はきっちり記録! 職場での無断録画・録音は情報漏洩などの観点から原則禁止されている会社が多いと思いますが、ハラスメントの証拠を集めるためならいたしかたありません。もしそれができなければ、いつ、誰に、どういう状況で、どんなことを言われたのか、ということをメモに残しておきましょう。次にするのは仲間を見つけることです。ひとりの声は小さくても、「私も同じことをされました」という人がいれば、会社も放ってはおけません。
「時代に取り残された広告会社の妄想なのか」CMでベビーカーを押すのは必ず女性…“子育てはママ”と決めつける日本の問題点 へ続く
(下河辺 さやこ)
(出典 news.nicovideo.jp)
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